普段、スーパーで何気なく購入する味噌。日本人にとってとても身近な食材ですが、近年は食生活の変化により、消費量は減少傾向なんだそう。
そんな時代の変化のなか、IT業界出身の若夫婦が老舗の味噌蔵を引き継ぎ、味噌の可能性を探求する新たな挑戦を続けています。
長野県長野市と上田市の間に位置する坂城町南条にある味噌蔵、新田醸造。
口伝によると、創業は安政2年(1855年)。それまでは醤油なども取り扱っていたようですが、戦後、4代目の新田信吉氏が「信州白樺印みそ」の源流となる味噌を開発して以降、味噌の製造・販売を中心に手がけるようになりました。
2023年より新田慶秋・森恵夫婦が新田醸造に加わり、歴史ある味噌蔵の新たな一歩として、販路や商品を見直すリブランディングに取り組み始めました。
今回は、若女将である森恵さん(通称:もりえさん)にインタビューを実施。新田醸造や味噌の作り方など、様々なお話を伺いました!
Q. もりえさん、本日はよろしくお願いします。新田醸造は歴史ある味噌蔵とのことで、新田醸造の歴史について教えてください。
新田醸造は、夫である慶秋のご先祖様が創業者です。
信吉の代では、味噌をお土産として買っていただくために、観光バス会社と連携して味噌蔵見学のツアーを組むなど工夫して売上を伸ばしていたようです。努力の甲斐もあって昭和の頃は順調だったそうですが、長野オリンピックで高速道路が開通して味噌蔵がルートから外れたり、日帰り観光バスの距離規制が設けられたりと販売環境が変わり、売上が減少傾向に。なんとか今までやってきましたが、コロナ禍では廃業を考えたほどでした。
しかし、伝統ある味噌作りの文化を残していきたいと思い、2023年より新田慶秋・森恵夫婦が新田醸造に加わり、夫婦で経営の舵取りをしながら、2024年には伝統を大切にしながらも現代風にブランドイメージを刷新するリブランディングも行いました。
Q. とても歴史が長いのですね。味噌は私たちにとっても身近な食材ですが、知らないこともたくさんあります。そもそも味噌は、どのように作られるのでしょうか?
味噌の主要な原料は、大豆、米や麦、塩、そして副材料として種麹があります。これらの原料が組み合わさり、発酵・熟成することで味噌が出来上がっていきます。
通常、信州の味噌は米味噌が主流ですが、私たちの味噌はお米に少量の大麦を混ぜて作った「合わせ味噌」が特徴。昔はシンプルな米味噌のみを製造していたようですが、4代目の新田信吉が試しに大麦を入れて作ってみたところ、とても美味しくなったようで、米と大麦の合わせ味噌を製造することになりました。米と大麦を合わせて味噌を作っている味噌蔵は、信州では珍しいようです。
その後、観光バスでたくさんのお客さんに来ていただいた時代に、あまりに味噌が売れて自社で製造する味噌だけでは在庫が足りなくなる事態に陥りました。
そのときに苦肉の策で、自社で製造している味噌に、信州の他の味噌蔵さんの味噌を2種類ブレンドしてみたのですが、ブレンドすることで華やかな香りを持ち、溶けやすく扱いやすくなることがわかりました。
こうして3種類の信州味噌をブレンドして人気商品となったのが、今の新田醸造の看板商品「信州白樺印みそ」です。
Q.原材料から工夫されているのですね。味噌は完成までにどのくらいの期間を要するのでしょうか?
味噌は、大きな桶やタンクで混ぜ合わせた原材料を発酵・熟成させることで完成します。スーパーでよく売られている大手メーカーの味噌は、FRP(繊維強化プラスチック)やステンレス素材のタンクで2ヶ月から3ヶ月ほどでできるのに対して、新田醸造では100年以上使われている古い木桶を使用し、保存料も添加物も使わず、自然な温度で約1年かけて熟成させる伝統的な製法を採用しています。
Q.昔ながらの製法で時間をかけて作られているんですね。木桶とFRPやステンレス素材のタンクには、やはり違いがあるのでしょうか?
「木桶仕込み」は、日本の古くから続く伝統的な製法です。木桶は通気性が良いのが特徴。木の成分が味噌に微妙な風味を加え、味噌の発酵過程が自然な環境で進むため、独特の風味と味わいが生まれると言われています。
新田醸造の木桶は杉の木で作られており、6トン桶が7つ、4トン桶が5つ、2トン桶が1つあります。
木桶を使った伝統的な製法では時間も手間もかかりますし、木桶がおける場所も限られているため、大手メーカーのように簡単に生産量を増やすことはできません。しかしその分、味わいが多様で美味しく、濃厚な味噌が作られると思っています。
Q.伝統的な製法で作られた味噌、とても興味があります。実際にどんなお客様が購入されているのでしょうか?
以前は60代以上の高齢層が中心でしたが、現在は30代、40代のお客様がすごく増えています。
ECサイトでの販売、またInstagramを始めてから、北海道から沖縄まで全国で購入してくれる方が増えました。
新規のお客様は「信州の美味しい味噌を探していた」という方や「スーパーで自分の好みの味が見つからず、Instagramで新田醸造のアカウントを見つけて購入した」という方が多くいらっしゃいます。
保存料や添加物なども使用していない点も評価されていると感じます。お子様ができて、調味料や口にするものを気にするようになったという方や、腸活に関心があり、発酵食品を取り入れるために購入するといった方も。味の違いはもちろん、健康志向の方が、ご自身の食生活を考え直されて購入されるケースも増えています。
Q.Instagramからの流入が多いのですね。どのような投稿をされているのでしょうか。
Instagramでは味噌を使った簡単・時短レシピを投稿しています。味噌そのものや、商品についての紹介はそこまでせず、レシピをメインに発信しているのですが、そこには「味噌を楽しんで食してほしい」という私たちの思いがあります。
新田醸造では2024年のリブランディングで【味噌の可能性を、とき放つ】というブランドコンセプトを掲げました。そこには味噌をより現代的にアップデートしたい、簡単かつ気軽にお味噌を口にして頂ける商品やレシピを作っていきたい、発酵食の素晴らしさを発信していきたい、といった思いがあり、コンセプトに沿った情報発信をしています。
編集部でも、実際にECサイトから購入した味噌を食べてみました!
味噌の味は……とにかく濃厚。深みがあって美味しい!
しっかりと風味があり、とても味が濃厚で一口なめただけで口の中に残り続けます。新田醸造のお味噌を食べた後、一般的にスーパーで売られている味噌を買うと少し淡白に感じるかもしれません。まずはこちらでお味噌汁を作ってみたところ、まるで料亭のお味噌汁のような味に。料理方法は変えていないのに、味噌を変えるとこんなに味が違うのか……と、衝撃を受けました。
Q.とても美味しく毎日の食事が楽しみになりそうです。新田醸造の今後の展望を教えてください。
2024年のリブランディングで、ロゴや商品パッケージを刷新し、ECやInstagramでの情報発信を本格的に行うようになりました。今後の成長に向けて少しずつ基盤が整い始めているので、これからは実店舗の改装も実施していきます。
現在の店舗は、味噌を製造していた工場の一部を拡張したもの。店舗の入り口も分かりづらく、あくまで工場の延長にあるような店構えとなっています。リノベーションして、リブランディング後のイメージに合わせていくことで、お客様が立ち寄りやすい店舗にできればと思っています。
Q.どんな店舗になるのか、今から楽しみです。最後に、本記事を読んでいる読者にメッセージをお願いします!
今、味噌が改めて、腸活や発酵食品といった健康意識の高まりの中で注目されています。もちろん味噌にはそういったメリットもありますが、私はむしろそういった特徴は副次的なものだと思っており、何よりも味噌を楽しんでいただければと思っています。
これまでは、60代以上のお客様が主な顧客層でしたが、現在は30代、40代のお客様も増え、「見せ方や伝え方を変えれば、若い世代にも受け入れてもらえる」と感じるようになりました。これからも積極的に情報を発信することで、味噌の魅力をたくさんの人に知ってもらい、味噌を食すことを楽しんでもらえればと思います。
もりえさん、ありがとうございました!
今回、実際に味噌を食べるまでは「味噌ってそんなに違いがあるのかな?」と思っていました。
しかし、味噌作りのこだわりを聞き、実際に商品を食べてみることで、その印象が大きく変わりました。味噌について、もっと勉強したいという思いも生まれています。
今、健康・環境への意識の高まりから、従来の日本食の価値が見直されています。食卓に、美味しい味噌を取り入れてみてはいかがでしょうか。