2022.04.07
環境を考える

サステナビリティを、スイスの腕時計産業から学ぶ

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SWISS MADE の認証は、一部の腕時計にしか与えられない

SWISS MADE」という言葉を知っていますか。

 SWISS MADEとは、スイスで作られた時計に刻まれた認証を指します。厳正なる審査の上、時計構成部品の半分以上とムーブメントがスイス製、また組み立てと検査もスイスで行われた腕時計に与えられる認証です。 

 現在、スマートフォンをはじめとした携帯電話が普及した背景から、腕時計を身につける人が少なくなっていますが、SWISS MADEの腕時計は、投資の対象になるほどの人気ぶり。その勢いは、衰えることを知りません。多くのビジネスマン、そして時計愛好家の心を離さないのが、SWISS MADEなのです。

腕時計の常識を覆した、1969年のクォーツショック

 資産価値として認められるほどブランド力の強いスイス製腕時計ですが、実は1970年代から1980年代中頃までは「Made in Japan」が市場を席巻し、スイス製腕時計は産業が崩壊する寸前まで追い詰められていました。

 1969年に、日本の時計メーカーであるセイコーがクオーツ式腕時計を発表。それまで主流だったゼンマイで巻いて動かす機械式よりも管理がはるかに楽なことに加えて、正確に時を刻むため、瞬く間に人気となりました。その後もセイコーは精度の向上に加え、小型化、軽量化、そして低コスト化を推進。
安価で正確な製品を市場に投入し続けることによって、腕時計市場のシェアを奪ったのです。1979年には、シチズンオリエントといった日本メーカーが台頭し、ついに日本製腕時計は世界市場シェアNo.1となりました。

日本とは真逆の方針を打ち出した、スイスの腕時計戦略

 しかし、そこで黙っているスイスではありません。1990年代に入ると、スイスは国内全体で高付加価値戦略を模索し、日本製腕時計とは真逆の価値を掲げました。

 それは「職人が作る、スイスならではの機械式時計」を逆手にとった戦略。オーバーホール(分解、点検、修理)を前提として、良い時計を使い捨てるのではなく、修理しながら長く使うことを提案したのです。

 この逆転の発想は、市場に大きな影響を与えました。消費者は腕時計の点検・修理が保証されているため、新品・中古品問わず、安心して購入することができます。何年経っても修理をすれば使用できるため、中古においても市場価値が下がりにくくなりました。さらには修理を請け負うことは、時計職人の雇用の安定にもつながります。。

 これは従来の「安く」「早く」「たくさん」提供する日本製腕時計、すなわち工業製品の大量生産・大量消費を目指す在り方と、対局にある戦略でした。時間をかけて、少量の高付加価値の腕時計を市場に届けることを、新たな付加価値としたのです。

 この戦略により、スイス製腕時計は高いブランド価値を獲得するにまで至ったのです。

SWISS MADEは、サステナブルにつながる消費の在り方

 時間をかけて職人が作った質の高い腕時計を、修理しながら長く使っていく。場合によっては、親から子へ、子から孫へと、何十年先にまで腕時計が受け継がれることもあります。この消費の在り方は、まさに現在のサステナブル消費につながる価値観と言えるでしょう。

 スイス産業がとった腕時計の販売戦略は、日本に勝つことを目的とした戦略でしたが、結果的に、21世紀の社会が求める消費の在り方とリンクしています。この戦略から、私たちが学べることはたくさんあるのではないでしょうか。

 SWISS MADEは、今日もどこかで、未来につながる時を刻んでいます。

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